詩歌 verse

酒は華影を涵(ひた)して紅光を溜め、爭(いかで)か忍ばん、華前に酔はずして歸るを。酒は花影を浮かべてほのかに紅く染まっています。どうして我慢できましょう。花を前にして酔わずに帰ることを。邵雍(しょうよう 字は堯夫 ぎょうふ)の「挿花吟」の一節。扁額のマットは古典的な松葉模様。見る角度によって、色が変わります。
中州の盛日、閨門多く暇なり。記し得たり、三五を偏(ひとへ)に重んぜしを。鋪翠の冠兒、撚金雪柳、簇帯、濟楚を爭(あらそ)ふ。如今、憔悴し、風鬟し、霜鬢す。怕見(ためらふ)、夜間に出去することを。簾兒の底下に向(お)いて、人の笑ひ語れるを聴くに如かず。中州華やかな日をのんびり過ごしました。覚えています。正月十五日元宵節を大切にしていたことを。かわせみの羽の冠、金糸絹紙の髪飾り、簇帯の清楚なことを競いました。今は憔悴し、髷は痩せ、霜のような白髪になり、夜の外出が億劫になりました。ただ外出よりも簾の奥で、私は人々が談笑していることを聴いていればいいのです。李清照の「永遇楽」 背景に「且(しばら)く共に
露を詠んだ歌を四首集めました。光をば曇らぬ月ぞ磨きける 稲葉にかかる朝日子の玉     西行法師蓮葉の濁りに染まぬ心持て などかは露を玉と欺く      僧正遍照よもすがら起き居てぞ見る照る月の 光にまがふ玉篠の露   源 師時霜凍る袖にも影は残りけり 露より慣れし有明の月      源 通具
楽器を奏でる詩歌を四首集めました。行く方も忘るるばかりあさぼらけ ひき留むめる琴の声かな     『堤中納言物語』より随分管弦還自足 等閑篇詠被人知   気分に任せた即興の演奏は、型通りの演奏よりも自然と満足することがあります。なにげなく詠んだ詩歌が、苦吟したものよりも人に知られることがあります。 白居易(楽天)の師の一節。落梅曲舊脣吹雪 折柳聲新手掬煙  笛の古曲「落梅」を奏でると白梅が散り、唇は雪を吹いているようです。琴の古曲「折柳」を弾きさわやかに歌うと、弾く手には青く煙る柳が結んでいるようです。  菅原道真の漢詩の一節。侘ぶ人の住むべき宿と見るなへに 嘆き加はる琴の音ぞする   良岑 
式子内親王の「眺むる月」をテーマにした歌を四首集めました。待ち出でても如何に眺めむ 忘るなと言ひしばかりの有明の空     眺むれば木の間うつろふ夕月夜 やや気色だつ秋の月かな眺むれば我が心さへ果てもなく 行方も知らぬ月の影かなそれながら昔にもあらぬ月影に いとど眺めをしづのをだまき
朝(あした)に看る、嶺上(りょうじょう)の雲、夕べに臥す松間の月。酔ひ起きて復(ま)た樽を開ければ、山花飛びて歇まず。朝、嶺上の雲を眺め、夕べに松にかかる月を見ながら寝ます。酔い起きて、また酒樽を開けると、山花は散り止みません。清の洪昇(字は昉思 ほうし) 「山居」詩。冷銀箋を青墨で染めて、漉き込まれた銀を浮き立たせました。月のぼかし染めを施しています。
坐上に客来たり、尊前に酒満つ。歌聲は水流、雲断と共に。席には客が集まり、樽には酒が満ちています。皆の歌声は水の様に流れ、雲の様に途絶えます。宋の李清照の「殢人嬌」(ていじんきょう)の一節。背景に金、銀、銅色で散らしているのは「尊」(樽の象形)です。「雲」の横にだけ「雲」の象形が記してあります。2022年の個展の案内はこの作品を使っています。
新豊(しんほう)の酒の色は鸚鵡杯(おうむはい)の中に清冷(せいれい)たり。長楽の歌聲は鳳凰管(ほうおうかん)の裏(うち)に幽咽(ゆういん)す。新豊県の酒の色はオウム貝でできた杯の中で清冽です。長楽宮の歌声は鳳凰管からむせぶように響いてきます。新豊県は現在の西安市。酒造が盛んだったようです。長楽宮は元、秦の宮殿。鳳凰管は笙の一種のことです。唐の公乗徳「送友人歸大梁賦」の一節。青墨で草書体、紅花墨で隷書体を重ね書きしています。
青山は故人の如し。江水は美酒に似たり。今日重ねて相ひ逢ひ、酒を把りて良友に對す。青い山は旧知の友人の佣、川の水は美酒に似ています。今日再び会うことができました。酒杯を把り良友と向かい合おう。「故人」は漢文では旧友の意味です。清の文点(字は与也 よや)「渡江」詩。「逌 (ゆう)」の金文体を背景に書いています。「逌」は酒器の「卣」が皿の上に載っている様子を示します。
葉を帯びて倶(とも)に樹を吟じ、花を将(もち)て共に空に舞う。 木の葉と共に樹を吟じ、花と共に空に舞う。祖孫登「詠風」詩から二句。背景に白抜きで蘇軾(字は子瞻)の詩を書いています。獨(ひと)り詠ず微涼殿閣の風。宮殿に吹くそよ風にあたりながら、一人詠吟す。紅花の花弁が漉き込まれた月山和紙を青墨で染めて浮き立たせました。風に舞う様子を表現しています。2021年の作品展「馥郁」のDMにはこの作品を使いました。
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