2021  杜若

らころも つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞおもふ  在原業平

 唐衣の様に着続けてなじんだ妻が都にいるので、遙々きた旅を悲しく思います。

あやめさく水に映ろふかきつばた 色は変わらね 花のかんばし   詠み人知らず(結城朝光?)

  あやめが咲き水面が映っている杜若の色も変わっていません。どの花もよい香りがします。

うちしめりあやめぞ香るほととぎす 鳴くや皐月の雨の夕暮れ   藤原良経

  しっとりとした気候の中で軒の菖蒲が香っています。ほととぎすが鳴く皐月の雨が降る夕暮れです。

かきつばた 衣にすりつけ ますらをの 競ひ狩りする月は来にけり   大伴家持

  杜若の色を染めた衣を着重ねした男たちが、薬狩りする月がやってきました。

一首目は「かきつばた」の折句。二首目はアナグラムで、奥州藤原氏の財宝の隠し場所がわかるといわれています。三首目は、端午の節句にあやめを軒に挿し飾る習慣を元にしています。四首目は端午の節句に、男たちが薬草を採る習慣を詠んでいます。

杜若(かきつばた あやめ しょうぶ)の歌には、現代にはない習慣や謎が詠みこまれていて、花は不思議な雰囲気をまといます。