書斎   2023

余、偶たま、性強記にして、飯罷(お)はる毎に歸来堂に坐して、茶を煮て堆積せる書史を指して、某事は某書の某巻、第幾頁(けつ)の第幾行に在り、と言ひ、中否を以て勝負を角(あらそ)ひ、茶を飲むの先後と成す。中れば即ち杯を挙げて大笑し、茶傾きて懐中に覆り、反って飲むを得ずして起つに至る。是の郷に老ゆるに甘心し、憂患貧窮の處(を)ると雖も、志、屈せず。

李清照の『金石録後序』  金の南侵(靖康の変)に巻き込まれ多くの財産をなくした頃の自身の記録を、冷静に著述した「後序」ですが、この一節には夫妻の幸せだった頃が感じられます。

作品の背景(マット)には紬を使っています。